2011年11月28日

サントリー白州蒸溜所 見学

美しい木々に囲まれた深い森は豊かな水脈に恵まれている。名水100選にも選ばれている尾白川など多くの清流が白州蒸溜所のある甲斐駒ケ岳の麓に流れてくる。日本を代表するシングルモルトウイスキー「白州」の爽やかな味と香りは、美しい森と水に育まれたものだ。ウイスキーの質は環境に左右される。発酵時の菌の状態、熟成時の貯蔵庫の環境、そして仕込み水の質。水と空気がウイスキーに与える影響は特に大きい。

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「シングルモルトのロールスロイス」と形容される名品マッカランは、スペイ川の伏流水を仕込み水にしている。スペイ川の水はコーヒーのような濃い茶色。ピート(泥炭)層から湧き出した水は独特の色と香りに満ちている。マッカランがこの特別な水の影響を受けないわけはない。以前スコットランドを旅行した時、この川の水のことが強く印象に残った。どんな色をしているかは、リンク先を見ていただきたい。これぞピートの色。この水なしにはマッカランは語れないのだ。(⇒マッカラン蒸溜所

ボウモア蒸溜所に行った時のことも忘れられない。貯蔵庫は水面下にあった。ボウモアはアイラ島の潮風の影響を強く受ける。他の場所ではこの味は出せない。ウイスキーの風味は作り手が作るのではなく、環境が生み出しているのだ。

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雄大な自然に抱かれたサントリー白州蒸溜所。世界でも珍しい森の中にある蒸溜所だ。シングルモルト白州の特徴は、爽やかな新緑の香りと果実香。森の中で作られたからこその特徴だろう。この場所を選んだことがウイスキー作りの全てだと言ってもいい。白州は森が作り出したシングルモルトだ。白州の深部に宿る香りや味わいは、ソーダで割ったときに立ち上ってくる。白州ハイボールが「森香るハイボール」といわれる所以だ。

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白州蒸溜所で特別ツアーを組んでもらった。今回は以前参加した白州蒸溜所見学ツアーの時は入れなかった場所にも入ることができる。僕が2度目の訪問ということで、白州のブランド担当者さんが気を遣ってくれたのだそうだ。基本的には前回と同じコースだが、一つだけ決定的に違うところがあった。

ウイスキーにとって蒸溜は最も重要な工程の一つ。ポットスチル(蒸溜釜)の微妙な形の違いでウイスキーの味わいに変化が生まれる。白州には様々な形のポットスチルがある。これは本場のスコットランドなどでも見られない特徴だ。蒸溜所は毎年変化する。世界中のウイスキーライターが、主要な蒸溜所だけでもフォローしきれないほど、毎年多くのマイナーチェンジが行われている。それほど進取の気性に富んだウイスキー業界にあっても、白州のポットスチルのような光景に出くわすことはほとんどない。ポットスチルの大きさは様々で、ネックが鋭角に曲がったものから直角に近いものまで、いろいろなタイプがある。たぶんひとつとして同じものはないだろう。そうして生まれた多様な原酒をブレンドして白州の味を作り上げる。

非常に繊細かつダイナミックな光景だ。僕はこの場にずっと立っていたくてたまらなかった。マッカラン蒸溜所でも同じような感覚を覚えた。ポットスチルが並ぶ光景は美しく、感動さえ覚える。マッカランでは立ち入りは許されたものの、写真は撮らせてもらえなかった。それほどに重要なノウハウが詰まった場所なのだ。白州蒸溜所では、見学ツアーでも蒸溜釜エリアに立ち入ることはできない。僕も前回はガラス戸の外から見守るしかなかった。

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白州の発酵槽は木桶にこだわっている。発酵槽は手のかからないステンレス製が増えているが、木桶にこだわるあたりは白州らしい。ウイスキーは工業製品だが、人間の手が及ばない部分も多い。木桶とステンレスとでは発酵にかかわる菌や微生物の働きも違ってくる。発酵や熟成といった工程では特に周辺環境から大きな影響を受ける。

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貯蔵庫に入ると、ウイスキーの香りに包まれたような感覚になる。ここにいるだけで酔っぱらってしまうのではないかと心配するほど、白州の香りが充満している。熟成中、ウイスキーは揮発して徐々に量が減っていく。5年で半分、15年で3分の1にまで減ってしまうという。減った分のウイスキーをエンジェルシェア(天使の分け前)といい、素晴らしいウイスキーを作ってくれた自然におすそ分けをしている。貯蔵庫の一番奥にはオーナーズカスクが置かれている。オーナーズカスクとは原酒を樽ごと購入することで、ブレンドする前の原酒を樽ごと購入することができる(2010年6月から一時休売)。価格は樽によってかなりの差があり、安いもので150万円とかそのあたりから、高いもので数千万円という値がつくらしい。購入後は全て瓶詰されてラベルにはナンバーがふられる。(たとえばこんな感じ⇒BAR AdoniS(アドニス) 渋谷

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ゲストルームに戻ると、白州のハイボール「森香るハイボール」のセミナーが行われた。白州の特徴のひとつは、しっかりとピートを焚くことによって生まれるスモーキー香。白州10年ではかすかに香る程度だが、18年や25年にもなるとかなり強く感じるようになる。オーナーズカスクを飲んでみると、ものすごいピート香に驚くことがある。

白州の香りがソーダの泡に乗って目の前ではじける。かすかなピート香が鼻先から広がっていく。その後に残るのはフレッシュな森の香りだ。白ワインのような果実香、若葉のようなさわやかな香り、そしてなんとも言えない甘い香りも漂ってくる。ハイボールにするとその特徴が際立つ。角やトリスのハイボールが市民権を得た今、ハイボールにはまった人たちが次に注目するのは白州だろう。白州ほどハイボールに合うウイスキーは少ない。特に女性にはいつもおすすめしている。敏感な人たちは神田駅前のディプントのような店で早くも「森香るハイボール」を試している。森香るハイボールとは、ミントを手のひらで軽く1回叩いて入れた白州のハイボール。ミントを叩いて入れることで爽やかな味わいがより鮮明になる。

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グラスにたっぷりの氷を入れて、ウイスキーを注ぐ。ウイスキー1に対して3の割合で、よく冷やしたソーダを加える。炭酸ガスが逃げないように注意しながら、マドラーで縦に1回ステアする。そして軽く叩いたミントを添えればできあがり。

雄大な自然の中で飲む森香るハイボール。まさに白州を通じて森が香っているような錯覚を覚える。2度目の工場見学を終えて、ウイスキーがいかに環境に左右されるものであるかを再認識した。白州に隠された若葉のようなフレッシュな香り。そのかすかな香りの由来を探すようなツアーだった。




■店名:白州蒸溜所(工場見学申し込み)
■住所:山梨県北杜市白州町鳥原2913-1
■電話:0551-35-2211
■電話受付時間:9:00~16:30(休業日をのぞく)
■休業日:年末年始・工場休業日(臨時休業あり)


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2011年11月22日

西日本 食べある記 2011

今年は帰省の途中でいろんなところに寄りながら帰ることにした。長野ではそばを食べたり、宿坊に泊まったりした。高野山でも宿坊に泊まって精進料理を食べた。善光寺、伊勢神宮、英彦山、高野山と寺や神社に寄りながら、でも別にそういう旅行というわけでもなく、各地で気になるものをつまみ食いしながら東京と福岡を往復した。今後もこういう旅行は続けたいので、とりあえず「西日本 食べある記 2011」というタイトルにしてみた。


野麦 そば 松本


藤木庵 そば 善光寺


良性院 善光寺 宿坊


伊勢うどん まめや 伊勢うどん


大はら茶屋 日田


駒どり 英彦山


ニュールンベルグ 有馬温泉


お好み焼き はつせ お好み焼き 大阪


重乃井 奈良店 うどん 奈良


一乗院  高野山 宿坊


2011年11月17日

ブラッスリー グー 牛込神楽坂

年初に考えたことのひとつとして、今年はビストロに注目しようというのがあった。かしこまったフレンチではなく、気軽にフォークとナイフで食事する感覚。スコットランドに行ったとき、現地の人たちから受けたこの感覚は新鮮な驚きだった。あの小気味のいい食事は、日本では味わえないものだろうか。全く同じでなくとも、ひょっとするとビストロやブラッスリーに行けば似たような感覚を得られるかもしれない。立ち飲みが流行ったり、銘柄居酒屋が流行ったり。居酒屋も様々な業態が流行した。そろそろビストロブームも本格的に来てくれないか、そんな期待も込めた年初の抱負だったのだが、それほどお店を回れないままもう11月になってしまった。

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ブラッスリーとは、元々ビール醸造所の意味で、そこからビールなどを飲ませる居酒屋の意味にもなった。ビストロとブラッスリーとは、日本ではあまり区別なく使われている。というかフランスでも境界はあいまいらしい。どちらもフランス語では居酒屋、小さなレストランというくらいの意味になる。

神楽坂にあるブラッスリー グーは、以前から気になっていた。昼も夜も人気があり、常に満席になっているという。岡部敬史さん、イラストレーターの田中小百合さん、トマ子さんと4人で訪問した。田中小百合さんについては、トマ子さんのインタビューに詳しい。リンク先に作品が出ているが味のあるイラストをたくさん描いている。岡部さんと田中さんは会社がすごく近いそうで、業種が近いこともあり意気投合した様子。たまたまではあるが、こういう繋がりができるのは見ていて楽しいものだ。

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ディナーコースは、前菜、主菜、デザートの3品をメニューから選ぶ。これで2,980円という低値段。正直、これだけの質でこの安さは驚きだ。ただ、高田馬場のラミティエなどと比べるとインパクトに欠けるところはある。あちらはより明確なコンセプトが伝わってくるし、店は小ぢんまりとしているが慌ただしさがない。ブラッスリーグーは小さい店ながらも席数は多く、接客がバタバタとしていた。いっぱいにお客さんを入れているので、店員が見きれていないように感じた。ブラッスリーだからしょうがないと言われればそうかもしれないが、ビストロやブラッスリーの難しさはこういうところにある。レストランではないので、客も我慢するというか理解しておかなければいけない部分はある。ブラッスリーを日本語訳すれば食堂とか大衆居酒屋になるのだが、実態はそうではない。少なくとも小さなレストラン並みのサービスは必要だと思う。2,980円が安いと思うのはこういう認識に立ったうえでの話。決して安居酒屋でいいということではない。

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写真は二人分の料理を並べてみた。前菜に鴨のリエットと、赤ピーマンのムース アボカド添え。主菜に、鴨ムネ肉のロースト グリーンペッパーソースと、牛頬肉の赤ワイン煮。デザートに、洋梨のタルト、モンブラン。この店は肉料理が得意のようだ。ボリュームはやや物足りないがしっかりとした調理と質の高さは感じる。肉をやわらかく煮て甘めのソースで食べさせる。好まれる味付けだと思う。

ワインもかなり安い。僕らは2006年のコート・デュ・ローヌ/ギガル3,990円にした。ローヌ地区で最も有名な生産者ギガル。コスパの高いものが多く、手頃なワインでもかなり高い評価を受けている。ブラッスリー グーでは、ワインは5,000円台のものが多く、ただ安いだけでなくコスパのいいものを選んでいるように感じた。



■店名:ブラッスリー グー
■住所:東京都新宿区矢来町82
■電話:03-3268-7157
■営業時間:11:30~14:30、18:00~21:00
■定休日:日曜日


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2011年11月15日

野崎酒店 居酒屋 新橋

新橋といえばサラリーマンの街というイメージが強い。事実、夜新橋を歩いていると、居酒屋で飲んだくれたおじさん達に遭遇する機会はかなり多い。一方で単にそれだけでは片づけられないような多様性を秘めているようにも思う。僕が新橋で飲み歩いた店の中には、鳥九のように焼き鳥が素晴らしい店や、舞浜のように魚がうまい店など、個性的な店がかなりある。中華料理の鴻運、餃子の玲玲、立ち飲みの豚娘なんかも面白い。こうしてみると、単にサラリーマンの街などと安易にくくることができない奥深さがあるように感じる。野崎酒店についても同様で、こういう店が駅の近くにあるということが新橋の奥深さを象徴しているように思う。

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今回は日本酒マニアのイボクさんのお誘いでマイミク4人が新橋に集合した。新橋という場所柄、もっと安い店で飲む人が多いだろうから、店は空いているだろうと油断していた。かなり早めの時間だったにもかかわらず、野崎酒店はすでに満席。席が空いたら連絡をもらう約束をして、まずは他の店で乾杯することにした。かわりに入ったのはカフェのように外に座席がある店で、まさにお茶をするような感覚でビールを飲むことができる。こういう店は使いやすい。お店から連絡があればすぐに出なければならない。5人で飲み屋に入って、ハイさようならたらというのも店に悪い。でもこういうタイプの店なら気兼ねはいらない。サッっと飲んでサッっと出る。空いた時間をうまく使うことができる。

野崎酒店に戻ると、店はまだ多くの人がいて、席があるようには見えなかった。イボクさんがお店の人と話をして戻ってきた。どうやら地下に席ができたようだ。地下の熱気は凄まじかった。日本酒好きの人が集まる居酒屋でよく感じるあの熱気。熱心が酒気を帯びたような、あの独特の雰囲気は何なんだろうか。いい居酒屋の中には、銘柄なんか気にも留めない店もあれば、うまい酒、珍しい酒を皆がむさぼる様に飲んでいる店もある。野崎酒店は後者の店だが、ここだけでなく最近の日本酒メインの居酒屋はみな同じなのかもしれない。

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日本酒は非常に種類が豊富だ。担当になった店員さんは、いかにも酒が好きそうな威勢のいい女性。聞けばいろいろなことを教えてくれる。こういう店でポイントになるのは、酒の揃えよりも店員の知識の豊富さだ。料理との相性や客の好みに合う日本酒をどれだけ提案できるか、その酒の特徴をいかに分かりやすく説明できるか、そういうところに違いがでる。野崎酒店には日本酒に詳しいだけでなく、いかにも日本酒を愛しているという感じの店員がいて好感が持てた。メニューにも、たとえば、「三芳菊純吟(徳島)亀口直汲み、甘くてすっぱい。面白い味わいです。0.7合600円、1.4合1,000円、2合1,500円」などと書かれていて、微笑ましい。日本酒の説明はこれでいいように思う。「リンゴの香り」などと表現した方がより正確に伝わるのかもしれないが、大抵のお客さんにとっては意味がない。「甘くてすっぱい面白い味わい」の方がより飲みたくなるものだ。

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料理は感動するほどではないが、きちんと選べばそれなりに楽しめる。店中に掲げられた黒板や短冊には、次何を食べようか迷うほどに多彩なメニューが並んでいる。旬鮮刺味おすすめ五点盛2,380円、特製牛すじ煮込み780円、肉だんごと春野菜の煮合わせ680円、南瓜(なんきん)まんじゅう~かにあんかけ~680円などを注文。とにかく酒メインなので料理はつまめる程度にあればいい。刺身は割高に感じるが、質は高いのでそれなりに納得がいく。〆に大盛り田舎ざる(3~4人前)1,380円を追加した。飲んだ後のそばはうまい。そば屋のそばだともっといいのだが、贅沢は言うまい。これだけいい日本酒が飲めて〆にそばまで食べることができる。それだけでも十分に満足できると思う。



■店名:地酒専門 野崎酒店
■住所:東京都港区新橋3-19-4新共ビル1階
■電話:03-6430-3329
■営業時間:平日17:00~23:30、土曜16:00~23:30、日祝16:00~22:30
■定休日:無休


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2011年11月09日

一乗院 高野山 宿坊

特急列車が車輪をきしませながらゆっくりと山を登って行った。高野山へ向かう南海電鉄高野線は険しい山間を縫うように進む。およそ特急とは思えないゆっくりとしたスピード。少しずつ高度を上げ、上へ上へと登っていく。昔の人はこの道を歩いて登ったのだろうか。馬でもヘコタレそうなほど険しい道。電車で行けば、大阪から2時間。その時間以上に遠くに来たような気分になった。この感覚はペルーの古代都市マチュピチュに似ている。山を登るほど、俗世と隔離されていくような感覚に包まれた。

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極楽橋駅でケーブルカーに乗り換えた。それにしても極楽橋とはすごい名前だ。近くに同名の橋がかかっているそうで、その橋が駅名の由来という。乗り換え時間はごく短い。極楽橋を見学する余裕もなく、バタバタとケーブルカー乗場へと向かった。

電車、ケーブルカー、バスと乗り継いではるばるやってきた。この日泊まるのは一乗院という古刹。平安時代の弘仁年間(810年~)に開かれ、九条家の菩提所として栄えた寺だ。

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高野山には一般人が利用できる宿坊が53寺ある。朝のお勤めに参加したり、写経や阿息観(あそくかん:密教の瞑想法)などの修行体験をすることもできる。一乗院には狩野探採の襖絵や曼荼羅図をはじめ多くの貴重な美術品があり、自由に見てまわることができる。庭は美しく、よく整えられている。建物は清潔で風呂や洗面所は並の旅館を凌ぐ設備。お坊さんたちは丁寧に接してくれて、居心地がいい。

でも僕がこの寺に期待したのはそんなことではなかった。精進料理がうまいという噂。それだけでこんな遠くまでやってきたのだ。高野山に一度行ってみたいと以前から願ってはいたが、重い腰を動かすにはそれなりの誘惑が必要。精進料理がなければこんな山奥にまでは来なかったかもしれない。

東京で38℃を越えたこの夏一番の猛暑日。関西の暑さも異常で、ずいぶんと体力を奪われた。一乗院の温度計は26.5℃。暑さからしばらく逃れることができそうだ。半日、観光をしながら旅行で疲れた体をゆっくりと休めることができた。観光が同時に森林浴にもなり、英気を養えるのが高野山の素晴らしいところだ。

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夕食は精進料理、夏の「花山吹」。献立は、本膳、中猪口:モロヘイヤのお浸し、平椀:胡麻豆腐 山葵 割醤油、吸物:玉蜀黍すり流し ベビーコーン素揚げ、御飯:新牛蒡(ごぼう)御飯、香の物:季節の漬け物、水菓子:季節の果物となっている。

まずモロヘイヤのお浸しを一口食べて、ここまで来てよかったと思えるほどにうまかった。ベビーコーン素揚げは香ばしい。季節の果物はメロン、グレープのソース、ミントの葉。夏らしい気持のいいくらい澄んだ味わいだ。

弐之膳は、八寸:枝豆塩焼き 無花果 敷き胡麻ソース 蓴菜(じゅんさい)、冷やし鉢:茄子と茗荷の爽やか煮 ミニ陸蓮根 振り柚子、酢の物:夏のいろいろ野菜。お好みで用意されたマヨネーズは、もちろん動物性のものは使わずにつくられている。夏のいろいろ野菜のトマトは目を見張るほどにおいしかった。

参之膳、油物:季節の天麩羅、蒸し物:椎茸湯葉蒸し 隠元 露生姜、お造り:海ぶどう 白玉 細水雲 造り醤油。全体的に控えめで華やかな印象。そして野菜がうまい。味付けは控えめながらもしっかりとしている。

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僕らが一乗院に泊まったのは、料理長の石和田氏が一乗院に来て約1年、料理長に昇進して半年も経たない頃だった。長年日本料理の世界に身を置いていたとはいえ、石和田氏はまだ若く、精進料理の経験も浅い。でもとてもそうとは思えないほど、料理の完成度は高く、既に一乗院の精進料理を体現しているかのように思えた。

一乗院のHPによると、「精進」とは悪を断って善を行いつとめに励むという意味。仏教では食も修業の一つと考えるので、心をこめて料理をし、それをありがたくいただき心身を養うのが精進料理だという。

日本料理の味の基本は、「甘・鹹(塩)・酸・辛・苦」の五味。精進料理はそれに「淡味」がプラスされる。心を清く静めてくれる「淡味」こそ、精進料理ならではの醍醐味。淡味とは、文字通り淡い味わい。淡い味付けの料理では素材の個性が重要になる。淡味とは素材を生かす味付けでもあるのではないだろうか。

長く続いた旅行もこれで終了。一乗院を後にして、大阪から新幹線で東京に向かった。善光寺、伊勢神宮、英彦山、東大寺、高野山と、図らずもお寺ばかりまわる旅行となった。宿坊にも2寺泊まった。こうして西日本を縦断してみると、まだまだ面白い食との出会いは尽きないと思う。やはり地方にはうまいものがある。



■店名:高野山 一乗院
■住所:和歌山県伊都郡高野町高野山606
■電話:0736-56-2214


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2011年11月01日

重乃井 奈良店

大阪の宿をあとにして、次の目的地高野山に向かった。高野山ではこの旅行のメインとなる精進料理が待っている。その途中、少し時間が余ったので東大寺に寄ることにした。奈良駅からバスに乗って東大寺に向かう。信号待ちの時、バスの窓から見えた景色に目を疑った。反対側のバス停の奥に公園があり、子供たちが遊んでいる。その横には巨大な鹿が、寝そべったり歩き回ったり、けっこうな頭数が自由に遊びまわっているではないか。普段見ることのない鹿が、奈良に来ると急に身近な存在になる。心の準備ができる前にそんな現実に引きずり込まれた気がした。

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東大寺の鹿はすごかった。目の前の公園には鹿がウジャウジャいて、そこを通らないと東大寺には行けない。鹿の大好物だという鹿せんべい(10枚150円)を買ってあげてみることにした。売っているおばちゃんと話していると、買う前から鹿が次々と寄ってくる。寄ってくるだけじゃなくて、なぜか噛みついてくる。「早くよこせ」ということだろう。奈良では鹿は「神の使い」と聞いていたが、鹿せんべいには「神の使い」すら惑わせる何かがあるらしい。材料は米ぬかと小麦粉だそうだが、人間にとってはおいしいものではない。どんな味がするのか一度食べてみたいものだが、大きな鹿たちに囲まれて、突進を受けたり噛まれたり、とてもじゃないが味見をする余裕はなかった。

奈良駅の近くに釜揚げうどんで有名な店、「重乃井」がある。奈良で最もおいしいうどんが食べれる店として定評のある店だ。釜あげうどんといえば、四国以外ではなぜか宮崎県が有名。重乃井も本店は宮崎にある。

メニューは冷やしうどん、天ぷらうどん、月見うどん、きつねうどん、釜あげうどんがあり、それぞれ並と大がある。せっかくなので看板メニュー釜揚げうどん(大700円)にした。並みと大の差額は100円。ここは素直に大にしておくべきだろう。ご飯類はちらし寿司(200円)、いなり寿司(200円)、おにぎり(200円)。日曜祝日以外の11:00~14:00はタイムサービスとなっており、うどん一杯につきご飯類が一皿サービスされる。僕らはちらし寿司といなり寿司をお願いした。
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メニューとは別に釜あげうどんの「お召し上がり方」という冊子が用意されている。「麺をめんつゆに漬けてお召し上がりください。麺が全てなくなりましたら、めんつゆを丼に戻して、スープとしてお召し上がり下さい」とある。茹で汁のスープだが、これがけっこううまい。思わず全部飲み干してしまった。

メニューには「10分程お待ちください」とある。釜あげうどんは時間が掛かる。釜あげうどんは茹でたあと水で締めずに、釜からとったままの麺を使う。讃岐うどんのように大量に茹でて水で締める店の場合、釜あげの注文が入るとその分だけ別にするので、他のメニューよりも時間が掛かる。重乃井の場合、注文を受けてから茹ではじめるというから、どのメニューを注文しても10分ほど時間がかかるようだ。

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店内には半分くらいのお客さんが入っている。皆新聞を読んだり雑誌を読んだり、思い思いの時間を過ごしていた。うまいものを食べるには待つことも必要。やはりこのくらいの心の余裕がないといけない。

重乃井のうどんは、昆布、かつお、日向産しいたけなどから取った出汁つゆに手打ち麺を合わせる。うどんはたっぷりの茹で汁の中に入って運ばれてきた。白く濁った湯の底からうどんを引き上げると、生温かい湯気からほんのりとうどんの香りが立ち上ってくる。まずは何もつけずに食べてみた。コシがなくゆるい麺だが、小麦の味わいがやさしく伝わってくる。水締めのようなコシはないが、モチモチとした食感のよさがある。かつおや椎茸が香る甘めのつゆは、普通のうどんだとしつこいかもしれないが、釜あげうどんと合わせるとちょうどいい。



■店名:手打ち釜あげうどん重乃井 奈良店
■住所:奈良県奈良市杉ケ町17-1
■電話:0742-26-7748
■営業時間:11:00~麺が終わり次第閉店
■定休日:水曜日、第3火曜日
※ランチタイム(11:00~14:00)おにぎり、いなり寿し、ちらし寿し、いずれか一品サービス
※日曜、祝日はランチサービスなし


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