アンセーニュダングル 原宿

カフェ バー

原宿駅から竹下通りを右手に坂を上ると、坂の上は三差路になっている。道なりに進むと明治通りにぶつかり、左に行くとデザイン事務所などが点在する住宅地になる。この辺りは原宿とは思えないほど人通りのない静かな路地が続いている。20年前のある日、少女が雨に打たれていた。その日はずっと曇りがちで、パラパラと小雨が降りはじめたところだった。坂を越えて線路脇の茂みの方になんとなく歩き始めた時、急にバケツをひっくり返したような激しい雨に変わった。彼女は逃げ込むようにこの路地に迷い込んだ。小さい頃から原宿が好きで毎週のように通っていたが、この道に入るのははじめてだった。次の角にカフェを見つけ、たまらず駆け込んだ。営業時間はすでに過ぎていたが、店員は彼女を快く店に入れ、一杯のコーヒーを差し出した。これがカフェ・アンセーニュダングルとの出会いだった。
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彼女はこの店の常連となり、今も通い続けている。店員は何度も替わったが、カウンターの居心地のよさはずっと変わらない。彼女を招き入れた親切な店員は、実家のある関西に戻り、俵屋のカフェ遊形 サロン・ド・テのプロデュースなどを手掛けている。僕は、彼女からこの店を紹介された。今は店長の新名氏が店を守っている。どういう縁か、新名氏とはよく一緒に食事に出掛ける。今では僕にとっても特別な店になった。
創業は1975年。当時流行っていたアメリカンコーヒーではなく、深煎りのフレンチコーヒーを選んだ。カウンター主体のスタイルは、後に多くの模倣店を生んだが、アンセーニュダングルほど明確なコンセプトが伝わってくる店はない。この店の魅力について、あまりに書くべきことが多い。木のカウンターに赤を基調とした色使い。薔薇は広尾のローズギャラリーから届く。いろんなタイプの席があり、様々なシチュエーションに対応できる。内装は松樹新平氏が手掛けた。半地下というのもいい。フランスの片田舎のカフェは、たぶんこんな雰囲気なのだろう。カウンターは特に居心地がいい。木の肌触り、高さ、幅、椅子の座り心地、バーテンダーさんとの距離感。落ち着く要素が全て揃っている。細かいこだわりは多々あるが、それらを貫く空気感こそがこの店の最大の魅力なのかもしれない。毎週、土曜か日曜の夕方には必ず顔を出す。常連はカウンター、そうでなければテーブル席に案内される。もちろん、カウンターを希望すれば誰でも座ることができる。喫煙は可。でも不思議と気にならない。誰でも受け入れてもらえる空気が流れている。
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ブレンドコーヒー 
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琥珀の女王 
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アンセーニュダングルの何がうまいか。真っ先に「水がうまい」というと叱られるだろうか。僕はとにかくここの水が好きで、いつもたくさん飲んでしまう。コーヒーで好きなのはブレンドコーヒー。ブレンドは1杯目に飲んでも2杯目に飲んでも、「おかわり」扱いになる。おかわりは半額。安いだけでなく味もしっかりとしている。オールドビーンズを使用した深煎で、多くの人が注文する「ブレンド」にしては、マニアックな風味。1杯目に何を飲もうか。マンダリン、ガテマラ、コロンビアなどは僕の定番。カフェ・オ・レにホイップを浮かべた「カフェ・クレーム」もいい。ジャバ・ロブスタは変わった味だが最もコスパが高い。「琥珀の女王」や「アイリッシュコーヒー」などもオススメ。その場で皮をむいて搾ってくれる「グレープフルーツジュース」も隠れた人気。メニューは多くないが、よく練られている。何もかもが最初に考え抜かれ、その後はずっと変わらない。これが重要なのだと思う。
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クロックムッシュ 
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ガトー・フロマージュ 
「クロックムッシュ」と「ガトー・フロマージュ(チーズケーキ)」は看板商品だ。自由が丘と広尾にも店舗があるが、ガトー・フロマージュは毎日自由が丘で焼き上げている。マスターは今でも自由が丘店のカウンターに立つ。それでも創業の地、原宿店は特別な店だ。アンセーニュダングル(Enseigne D’angle)とは、「角」を意味する。少女が迷い込んだ路地の「角」にその店はあった。彼女の好きな色は赤。店内を見渡せば、鮮やかな赤色をそこらじゅうに見つけることができる。恐らくマスターも赤色が好きなのだろう。カフェと人とは、お互いに惹き合うものなのだろうか。20年前のあの日、出会うべくして出会ったように思えて仕方がない。
アンセーニュダングル 原宿店
アンセーニュダングル 原宿店 2
アンセーニュダングル 自由が丘店

■店名:カフェ アンセーニュダングル 原宿店
■住所:東京都渋谷区千駄ヶ谷3-61-11 第二駒信ビル B102
■電話:03-3405-4482
■営業時間:10:00~23:00
■定休日:無休

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