居酒屋の本などでよく紹介される店、遠太。この店の記事を見ては、一度は訪問したいと思っていました。映画やテレビのロケにも使われたという、古めかしい建物は、古きよき昭和の雰囲気を醸しています。ご主人が亡くなられてからは、女将さんお一人で営業されているそうです。暖簾は何故か、常に店内に掛けられています。暖簾には「天ぷら」「うなぎ」という文字。ご主人がいた頃、出していたメニューです。今はやっていないので、表には掲げられないのでしょうか。でも暖簾は替えたくない。そんな気持ちが伝わってきます。
三ノ輪駅から徒歩5分。有名な「やってるぞ 遠太」の看板が見えてきました。古めかしい戸をガラガラと空けると、カウンターの常連さんたちが一斉にこちらを振り向きます。その異様な空気に一瞬たじろぎつつ、カウンターの隅に腰掛けました。常連さんたちは、知った顔じゃないことが分かると、何もなかったかのように会話に戻っていきました。
座敷に1組、カウンターに2組。まばらに座って、ほぼ満席です。座敷と奥のカウンターの人たちは、仲がいいようです。手前の2人も時々会話に加わるところを見ると、結局僕だけが知らない人。手前のカウンター席は、イスが低く床も窪んで座りづらい。この席は普段使ってないのかもしれません。ここからはメニューが見えないので、席を立って、メニューの札を見に行きます。女将さんが「座敷に座ったら?」と声を掛けてくれました。座敷は遠慮していたので、この提案はありがたい。移動させてもらうことにしました。
ただ座敷から厨房は遠く、間に常連さんたちが陣取っているので、なかなか注文ができません。遠太は女将さんが1人で切り盛りしています。何か作っているようなので、手が休まるまで待つことにします。ようやく女将さんが近くに来た時には、すでに30分が経過していました。ようやく最初の一杯を注文。遠太特製焼酎ハイボール300円にしました。
「料理もいいですか?」と聞くと、奥からメモ帳と鉛筆を持ってきて、「これに書いて」と渡されました。注文は、マグロブツ450円、豚汁300円、揚出しとうふ350円。豚汁は用意がないのか、その場で消されてしまいました。マグロブツもなかなか出てこなくて、運ばれてきたのは1時間後。それまでハイボール1杯で過ごすのはツライものです。でも一見だし、お店の様子もわからないので、一人でのんびり飲みながら時間を過ごしました。
様子を見ていると、お客さんと店との関係もなんとなく理解できてきます。常連さんが勝手にお酒を作って飲んだり、女性客が洗い物を手伝ったりしています。女将さん、お身体がよくないのかな?と思ったのですが、前の日に遊びに行った話などを聞いていると、どうやらそういうわけでもなさそうです。女将さんは常連さんと話したり、酒を出したり。後から来た人にサービスで揚出しとうふを出してあげたりしています。ていうか、僕の揚出しとうふは?とツッコミたくなりますが、ここは居酒屋。もう少し待っていましょう。特に遠太のような店は、常連のためにやっているようなものです。実際、僕以外の客は全員常連ですから、一見は気を遣います。それでも自分も客ですから、遠慮しすぎるのもおかしい。2時間経過しても、揚出しとうふが出てこないので、その旨を告げて帰ることにしました。
古い居酒屋は次々と姿を消していきます。高齢になると、そろそろお店を閉めてゆっくりしようということになります。遠太の場合は、ご主人が亡くなってからも、女将さんが一人で店を守っています。ただ、昔と同じようにはいかないものです。今はほとんど常連さんのための店という印象です。ここに来る人はみんな仲がいいようで、楽しそうに飲んでいます。遠太で飲むなら、何度も通って常連になるのが一番。誰にでも勧められる店ではありませんが、居酒屋とはそういうものではないでしょうか。
■店名:遠太(えんた)
■住所:東京都荒川区東日暮里1-31-2
■電話:03-3891-1175
■営業時間:17:00~22:00
■定休日:日曜・祝日
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