広島で少し時間があったので、昼ご飯を食べていくことになった。広島といえば、やっぱりお好み焼き。お好み焼きの有名店には、「八昌」、「みっちゃん」、「麗ちゃん」などいくつもあるが、店によっては1時間以上の行列だそうだ。でもそんな観光名所のようになっている超有名店でなくて、地道に頑張っている店はないだろうか。そうやって探していく中で僕が一番気になったのが「いっちゃん」だった。
「いっちゃん」は、広島風お好み焼きの元祖のひとつ「みっちゃん総本店」の息子さんの店。ちなみに、みっちゃんには3系統あって、親族ではあるが経営は別。広島市内で最も多くの店舗を展開している系統だ。
広島駅から10分ほど歩くと、いっちゃんの看板が見えてきた。店内は満席だったので外で待つことにした。店先に看板があり、「ねぎかけそば入り」「チーズそば入り」がおすすめと書いてある。それに従って「ねぎかけそば入り」にしようと心を決めたところで中に案内された。
運がいいことに鉄板の前のカウンター席が空いていた。いっちゃんはほとんどがテーブル席で、鉄板の前の席というのがこのカウンター5席だけなのだ。広島風お好み焼きの醍醐味は、鉄板の上に置かれたお好み焼きをコテでそのまま食べることにある、と僕は思う。それだけでもずいぶんと満足度が違うから、一度試してみてください。
ご主人はものすごく忙しく仕事をしている。行列はないが常に満席で出前の電話がひっきりなしに掛かってくる。だからひたすら作り続けなくてはいけない。忙しくても店員さんはみんな落ち着いていて、時折笑顔も見える。ご主人が絶え間ない作業のほんの一瞬の隙間に冗談を言ったりしている。だから店員さんたちの雰囲気はとてもいい。それでも、あまりに忙しくてオーダーを間違えそうなので、何度も細かく確認していたりもする。
カウンターでじっと待っていると、何度も同じ光景がくり返される。最初に卵を焼く。卵はクレープのように薄く丸く伸ばし、最後に鰹節をかける。キャベツとモヤシ、豚肉をのせる。豚肉は2枚。見た感じいい肉を使っているようだ。キャベツはたっぷりと山盛り。でも押さえたりはしない。キャベツの上に焼きあがった卵をのせてしばらく蒸す。途中で一度卵を外してキャベツをひっくり返す。そしてまた卵をのせる。この作業をずっと続けている。
他の店のように上からコテで押さえたりはしないので、キャベツが甘くふんわりとした蒸し焼きになる。これがおいしさの秘訣なのだろう。ひたすら同じ作業を繰り返しつつ、焼き加減を見たり、焦げた部分を捨てたりとかなり丁寧に繊細に調理していた。
一瞬ご主人の手が空いたので、写真を撮ってもいいかどうか聞いてみた。「お好み焼き?いいよ」とあっさりとOKしてくれた。話しかける瞬間はこの時だけだった。ずっとお好み焼きを作っていて話し掛ける隙間もないのだ。
キャベツは甘く、シャキシャキとした食感。火を通し過ぎないから、キャベツのうまみが上手く残るのだろう。薄味だからこそ、キャベツやネギの味や香りも分かりやすい。調味料は仕上げのソースだけで、変な化学調味料などは入れない。だから食材のおいしさが最大限に引き出されているのだと思う。
僕はこれまでお好み焼きというものをそれほど食べて来なかったけど、今まで食べたお好み焼きの中でいっちゃんのお好み焼きが一番おいしかった。この質の高さであれば、ミシュランガイドに載るのも当然なのかもしれない。真面目に丁寧に、シンプルにおいしさを追及しているという印象があった。
■店名:いっちゃん
■住所:広島県広島市東区光町1-6-30 第一吉岡ビル101
■電話:082-567-6776