今年の3月13日に上野~札幌間を走る寝台特急「北斗星」が廃止になった。最後のブルートレインとして唯一運行を続けていたが、開業から27年の歴史に幕を閉じることになった。新聞にそのニュースが出た時、最後に一回だけでも乗っておこうかと、軽くそんなことを考えた。でも調べてみるとこれが大変な難関だということが分かった。考えてみれば当たり前のことだ。僕みたいな素人が乗ってみたいと思う列車を、いわゆる鉄男とか鉄子たちが放って置くわけがない。最終の北斗星の切符は発売と同時に完売し、オークションでは100万円超える高値になったという。
座席を確保するだけでも大変なのだが、それ以外にも予想外にハードルの高いことがいろいろとあった。とりあえず食事券が取れないとディナーを食べることができない。まさか全員分用意されてないとは思わなかった。寝台列車の醍醐味の一つは、食堂車での食事ではないだろうか。海外の映画などに登場する食堂車のシーンはとても魅力的だ。その気分を味わえるのが、限られた人だけだとは、なんとも残念だ。ディナーのあとに食堂車が解放され、パブタイムになる。行列はするが、それでも救済措置が取られているだけありがたい。
それから個室が取れるかどうかも重要だ。いろんなタイプの席があるし、好みにもよるとは思うが、北海道に行く寝台列車だから個室から眺める雪景色を見てみたいという思いは強かった。個室に関して言えば、上野発はやはり競争率が高くて、帰りの札幌発は比較的取りやすい。みんな考えることは同じということか。
チケットの取り方にはいろいろなノウハウがある。我が家は何パターンかで申し込みをした。最初に取れたチケットは、行きは北斗星で食事券は取れたが、個室ではなかった。帰りは飛行機だ。もう一つは、行きは飛行機だが、帰りは北斗星で個室と食事券が取れた。でもそれだと、朝起きたら北海道の雪景色!みたいな楽しみがなくなってしまう。それでも競争率の高いチケットが取れたことには違いないので、無駄にはしたくない。3月で終わりなんだから、日程をずらせばさらに競争率は上がるだろう。どちらかのパターンで決めるか、時期をずらして取り直すか、かなり悩ましかった。
結局、時期をずらしてチケットを取り直すことにした。その結果、行きは北斗星で食事券付きの個室、帰りは寝台特急「カシオペア」で、こちらも個室と食事券が取れた。行きも帰りも完璧に買えるとはさすがに考えていなかった。すごく運がよかったのだと思う。
難関はもう一つあった。シャワー券だ。北斗星はシャワーも全員が使えるわけではない。1人6分間のチケット制だ。
列車が上野駅に到着すると、廃止を惜しむ人たちでホームは一杯になっていた。その人だかりをかき分けて、自分の席に荷物を置き、走って食堂車に向かった。食堂車でシャワー券の販売があるのだ。シャワーの時間や水の量が決まっているので、当然人数制限がある。食堂車に着くと、通路にはすでに行列ができていた。列車の撮影に時間が掛かったせいで、シャワー券を買うのはギリギリになってしまった。
これでようやく全てがそろった。部屋に戻ってベットにぐったりと腰を下ろした。これから出発というのに、もうかなり疲れてしまった。
夕食の時間になり、食堂車に向かう。最後のブルートレインということで、車両は古いが食堂車の雰囲気はとてもいい。こういう味のある列車がなくなってしまうのは、ほんとうに惜しいことだ。
夕食は和食と洋食のどちらかを選ぶ。帰りのカシオペアとメニューは同じということで、行きは和食を食べることにした。
※洋食は帰りのカシオペアの記事を見てください。
ワインは「北海道産ツヴァイゲルト・レーベ(赤)2,060円と、北海道産ミュラー・トゥルガウ2,060円(白)。どちらも北斗星オリジナルラベルだ。まずは赤ワインを飲んで、白はお土産用に購入した。ワインの後は日本酒。めちゃくちゃな飲み方だが、せっかくの北斗星だから仕方ないだろう。日本酒は北海道の日本酒「男山」にした。燗・常温・冷酒とあり、どれも1合530円だ。日本酒はもう1種類、朝日酒造の「大人の休日」(冷酒・1合1,500円)があった。
食後はパブタイムも狙っていたのだが、僕らの食事中から行列ができていたので、その人たちだけで営業時間が終わってしまった。それでもこうして、多くの人が食堂車を楽しめるのはいいことだと思う。
北斗星は中央付近に誰でも使えるラウンジがある。食事の前後はかなり混んでいたが、シャワーを終えた頃にはあまり人がいなくなっていた。北斗星で売っているビールは北海道限定の「サッポロクラシック」。麦芽100%の生ビールということで、なかなかうまい。これをラウンジに持ち込んで飲み直すことにした。ちょうど車内販売の人が来たので、「まちむら農場」というアイスも購入。車内販売の人は時間を延長して夜中まで働いていた。翌朝も早いので、たぶんほとんど寝てないんじゃないかと思う。
次の日の朝起きると、外はまだ暗いがどうやら雪が降っているらしい。青函トンネルはもう通過したのだろうか。廊下に出ると、何人かの鉄男くんたちの会話が聞こえてきた。青函トンネルは、かなり遅れて通過したとのことだ。昨日から、何駅で何分遅れとか、ずっとチェックしている。この人たちは寝ないで外を見ていたのだろうか。外が薄っすらと明るくなってきて、海沿いの美しい寒村を通過した。
朝食は2種類用意されていた。和食と洋食だが、どちらも簡単なものだ。慌ただしかった昨日とは打って変わって、朝は落ち着いた雰囲気。僕らも北斗星に慣れてきて、精神的な余裕があったのだろう。気持ちのいい日がさす食堂車は、なんとも言えない心地よさだ。朝の一番天気のいい時間に食堂車で過ごすことができるなんて、予想外のことだった。みんなこの時間を楽しんでいる。最後に北斗星に乗ることができた幸福を噛み締めているようにも見えた。
※ちなみに北斗星の運行は3/13で一旦終了するが、臨時便で8/21まで運行することが決まっているらしい。その半年間はA寝台を増やして、カシオペアのように最後尾に立派なラウンジカーが用意されるらしい。
※詳しくはこちらのブログを参照してください。