良性院 善光寺 宿坊

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藤木庵を出て、参道で買物をしながら善光寺へ向かった。個性的で面白い店が多く、ついつい寄り道をしてしまう。お土産もここで買うことにした。そんなことをしているうちに、気が付くともう夕方になっていた。その日僕らが泊まる宿坊「良性院」は、仁王門のすぐ近くにある。宿坊とは、寺社の参拝客のために境内に建てられた宿のこと。元々は僧侶が宿泊する施設だった。江戸時代にお伊勢参りや善光寺参拝が浸透する中、徐々に整備され、一般の観光客も泊まれるようになったという。仁王門の周囲には多くの宿坊が並んでいる。仁王門の手前に19軒、奥に20軒、全部で39軒もある。良性院はちょうど中間の仁王門通り沿いにあった。
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仁王門は何度か火災で焼失した。現在の仁王門は大正7年(1918年)に作られたもので、仁王像は高村光雲と米原雲海の合作だ。指先まで力がみなぎり、筋肉や血管が浮き上がっていて迫力がある。高村光雲は上野の西郷隆盛像も手がけた。詩人の高村光太郎の父でもある。この仁王像はディテールがリアルにできている。細かいところを見ようとして覗き込むと、足先が何かに触れた。足元に猫が寝ているのだ。寝ているというよりも、倒れているという方が正しいのかもしれない。近くを通った人たちはみんな、心配そうに覗き込んでいる。これだけ暑いと、日射病も心配になる。ただ寝ているだけならいいのだが。
お参りをしてから宿坊に入る予定だったが、ずいぶん遅くなってしまった。まずはチェックイン(というのだろうか?)してから、夜ゆっくり周辺を散歩することにした。ところが宿坊には門限があるという。18時に夕食が出されるのだが、それまでには戻っていないといけない。しかもその後の外出はできない。
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旅行に出掛けると、その土地の食や酒が大きな楽しみになる。夜の街を散歩しながら、目ぼしい店を探すのは楽しいものだ。僕はそういう時、事前に調べることはほとんどしない。ガイドブックや口コミサイトは、地方の場合はとくに役に立たない。夜風に吹かれながら、繁華街をそぞろ歩きして、明かりのついたガラス戸を覗き込む。暖簾の風格、店内の様子、いい感じで酒が入ったおじさんとご主人の顔。そういった情報からその店の空気のようなものをつかみとる。気分が合えば、スッと中に入ってしまう。いくら雰囲気がよくても、料理がいいかはわからない。でも不思議なことに、今まで失敗したことは一度もない。店先から覗くだけで、いろいろなことが分かってしまうものだ。
今回は宿坊に泊まるのだから、夜遊びは諦めるしかない。そもそも善光寺は16時半に閉まる。周辺の店もそれに合わせて、みなそのくらいの時間に閉めてしまうらしい。門限があろうとなかろうと、夜そとに出ても何もすることはなかったのだ。
宿坊は善光寺を取り囲むように配置されている。観光に便利というのも利点だが、なにもそれだけではない。多くの宿坊では精進料理も食べることができる。食事を目当てに宿坊に泊まる人も多い。
精進料理は10品ほどもあり、なかなかボリュームがある。下に敷かれている紙には、「観音さんも見ている 勢至菩薩さんも見ている 阿弥陀如来さんも見ている みんな見ている 善光寺 合掌」という言葉が記されてあった。てんぷらやそば、豆腐や煮物などが出された。宿坊の食事としては、たぶん標準的なメニューなのだろう。広い畳の部屋にこの日の全員分の料理が用意されている。家族連れ、初老のご夫婦、若いカップル、女性二人で来ている人たちもいる。こうして見ると、善光寺には様々な人たちが来るのだなと思う。お寺ですれ違う人々に関心を持つことはほとんどないが、ここで食事をしていると隣の会話も聞こえてくる。お互いに他の参拝客の顔が見えるというのは、宿坊ならではの経験だと思う。
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翌朝は5時に起きて、お朝事に出掛けた。玄関が部屋になっていて(ワケワカランけど、そうとしか言いようがない)、その部屋で集合した。ソファに座わると、昆布茶が運ばれてきた。みんなこれを一杯飲んで出発することになった。先導する副住職さんの後をついて、ぞろぞろと善光寺に向かう。早朝なので、まだ少し暗い。仁王門を回り込んで、門をくぐって参道に入った。前の日に、門の柱に寄りかかってぐったりと寝ていたあの猫は、朝見た時は門の外側でごろごろと寝ていた。近所の人がおやつをあげると、その時だけ顔をあげて食べはじめる。高齢なのか、何か食べるとき以外はぐっすりと寝ているのだった。
お朝事とは、善光寺本堂で行われる法要。毎朝欠かすことなく、日の出とともに開始される。元々は本堂に泊まって、そのままお朝事に参列していたというが、本堂での宿泊が禁止になってからは宿坊が宿泊と案内を受け持つようになった。お朝事は約1時間行われる。善光寺は無宗派の寺だが、天台宗と浄土宗のお坊さんたちによって日々法要が行われている。
善光寺の敷地内に入ると、座って一列に並ぶように言われた。門の中からお坊さんの行列が出てきた。これは「お数珠頂戴」の儀式というそうで、お朝事の導師を務める善光寺の住職が、信徒の頭を数珠で撫でて功徳を授けるもの。お朝事の前後の往復で行われるが、帰りはタイミングが難しいので、確実に受けたければ朝がいい。
善光寺で忘れてはいけないのが「お戒壇めぐり」。本堂の下の暗い通路を歩いていき、「極楽のお錠前」と呼ばれる鍵に触れると、極楽往生が約束されるという。通路は真っ暗で何も見えない。触れることができない人もいるらしい。そもそも「お戒壇めぐり」自体を忘れそうになるので注意が必要だ。
宿坊に戻ったら、朝食が用意されていた。さっさと片付けて、次の目的地に急ぐ。この日も予定がぎっしりと詰まっている。初日からつめこみ気味の旅行だったが、ほんとうに忙しいのはこの日だった。
■店名:良性院
■住所:長野県長野市元善町498
■電話:026-232-2988

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