石垣島に辺銀食堂という店がある。辺銀とは見なれない字だが、これで「ぺんぎん」と読む。ご主人の苗字が辺銀さんなのだとか。ペンギン食堂は「石垣島ラー油」で一躍有名になった。僕がはじめてこの店のことを知ったのも、すでに入手困難だった石垣島ラー油をいただいた時だった。当時、(今でもそうなのかもしれないが)石垣島ラー油を東京で買えるのは銀座の「わしたショップ」というアンテナショップだけだった。わしたショップでは毎月10日に発売する。この日はたいてい開店前から行列し、並んでいる人たちに整理券を配って販売終了。いつもこのパターンなんだそうだ。
そんなことなら普通に買いに行ってもお目にかかれるはずがない。僕も何度か見に行ったことはあるが、棚にはいつも「売切れ」の文字と石垣島ラー油によく似た類似商品が置いてあるだけ。自分で買うのは初めから諦めているのだが、「久しぶりに石垣島ラー油が食べたいなあ」と思っている時にたまたま誰かがくれたりする。自家製ラー油をずっと作っている我が家としては、それほど需要があるわけではないのでこのくらいのペースがちょうどいいのかもしれない。
ペンギン食堂は石垣島の南端に近いところにある。石垣島ラー油で一躍全国区になったものの、今でもその名の通り食堂として営業している。何かのついでに一度行ってみたいと思っているものの、石垣島に「何かのついで」なんか滅多にあるはずもなく、いまだ訪問できずにいる。ところがこのペンギン食堂は時々東京進出をしている。今年はけっこう長い期間、青山のワタリウム美術館に出店している。地下のミュージアムショップに行く途中、階段の横のちょっとしたスペースにある「オン・サンデーズカフェ」でペンギン食堂のメニューを食べることができるのだ。
期間は2011年10月17日(月)~2012年1月15日(日)。「石垣ペンギンとオン・サンデーズのアート&豊年祭」としてペンギン食堂がオン・サンデーズ内に期間限定オープンしている。「1日20食限定。要予約」というから、まだ大丈夫かな?と不安になりながらお店の人に詳細を聞いてみた。僕が行ったのはこの企画がはじまったばかりの頃で、予約はまだ全然入っていなかった。早速予約をして後日出掛けることにした。
青山ペンギン定食(2,000円)では4種類の料理を食べることができる。そのうち3つはすぐに盆にのせられて運ばれてきた。一つ一つは小さいが、3つ合わせるとランチで食べるにはボリュームがある。ジャージャンすばには特製ジャージャンみそがかかっている。これは辺銀さんが北京の叔母さんから習ったレシピに干しエビや芽菜(ヤーツァイ)を加えてアレンジしたものらしい。ヤーツァイというのは四川省名産の漬物のことだそうだ。麺はペンギン食堂オリジナルの八重山そば。無添加・無かん水のすば。沖縄では「そば」のことを「すば」という。
卓上には石垣島ラー油とにんにく油が置かれていて好きなだけ使うことができる。にんにく油を少し入れて香りづけをしておいて、石垣島ラー油をたっぷりとふりかけた。このすばのうまいこと。石垣島ラー油のうまさもより引き立っている。すばとラー油の相乗効果。奇跡的な相性の良さではないか。
石ラーツナ丼は、石垣島近海でとれたビンナガまぐろを100%使用。これも石垣島ラー油と相性がいい。やっぱり自家製だからオリジナルメニューに合うようになっているのだろうか。ペンギン食堂のメニューは石垣島ラー油でさらにうまくなる。アーサスープは、黒島産のアーサ(あおさ)を使用したスープ。磯の香りがたまらない。
デザートはアイスクリームの黒糖ジンジャーシロップかけ。「ゆきさんちの黒糖ジンジャーシロップ」は波照間島産の黒糖と生姜を煮込んで作った手作りのシロップ。ラー油のかけすぎで若干もたれぎみだったのが、これを食べるとさっぱりとした。で、調子に乗って追加でデザートを食べることにした。
ちょうど開催されていた「草間彌生 ボディ・フェスティバル in ’60s」展。ミュージアムショップは草間彌生さんのドギツイ作品に占領されていた。オン・サンデーズも壁に真っ赤な水玉を貼りつけている。この期間、ワタリウムは草間彌生一色になっていた。特別メニュー水玉ケーキのセット(800円)を注文。正直ビジュアルは微妙だが、味はまずまず。この店はカフェとしては穴場。完全にノーマークだったのだが、静かで落ち着ける空間だ。
ワタリウム美術館はスイスの建築家マリオ・ボッタの設計。たぶん日本で唯一の作品だろう。オン・サンデーズは美術館よりも古くからあり、今は一階と地下で営業している。一階ではなんと石垣島ラー油も販売している。あまり知られていないようなのでこっそり書いておくけど、売切れてもいないし行列もしていない。いつも普通に店先に並んでいる。こんなに平和に売られているのはここだけかもしれない。
■店名:ペンギン食堂 オン・サンデーズ
■住所:東京都渋谷区神宮前3-7-6
■電話:03-3402-3001
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