日田には小さい頃から何度も訪れた。子供の頃はよくやな場に鮎を食べに行ったし、大学に入ってからは友人と毎年のようにドライブに行った。やな場は年に4ヶ月ほどしか営業しないのだが、季節になるといつも連れて行ってもらった。特に家から近いわけではない。車で山をいくつも越えていくのだから、我が家はよっぽど日田が好きなのだろう。そうでない限り毎年のように行く気にはなれないはずだ。
今年はお盆に帰れなかったので、時期をずらして帰省してみた。いつもは地元の気になる飲食店に出掛けるのだが、今回は特に予定はない。その旨を告げると「じゃあ日田にでも行くか」ということになった。
最近は「やな場」に行列ができていると聞き、耳を疑った。言い方は悪いが、あんなものに行列してどうするのかと思う。僕はやな場が大好きで、できれば毎年行きたいほどだが、それでも「あんなもの」と思ってしまう。特別じゃないからこそいいのだ。行列なんかするものじゃない。所詮やな場なのだから。その気軽さを楽しむ、夏の風物詩みたいなものだ。
予想通りだったが、最近の行列の原因はテレビだった。どこかの局で取り上げられて、しばらくは大変な混雑だったという。それから何ヶ月も経っていたが、テレビの影響はまだ少し残っていたようだ。
僕の理解では、やな場というのは、竹などでスノコを組んで床を作り、川に差し込む。そのスノコの上に打ち上げられた魚を取るという原始的な漁法だ。日田では主に鮎を捕る。川を下ってきた落ち鮎だ。やな場に打ち上げられた鮎をその場で塩焼きにして食べる。たぶんそんな説明で合っていると思う。
鮎は串焼きにして、川沿いに建てられた仮設テントのような場所で食べる。基本はそういうことなのだが、そんな大量に鮎が仕掛けにかかるはずはない。当然養殖の鮎も使う。これが現実だし、養殖だろうと何だろうとそんなことは誰もが承知しているので特に問題ではない。川沿いで鮎の塩焼きを食べる。そういう営みを楽しむ場なのだ。
メインの「鮎の塩焼き」には小(500円)、中(600円)、大(700円)、特大(時価)などと大きさによって値段が細かく分かれている。「地鮎は大きさにより各300円増し」なんていう注意書きまである。定食も用意されていて、鮎の塩焼き、鮎のせごし、鮎めし、鯉こく、ごま豆腐などが付いた「竹定食」(1,550円)、ごま豆腐の代わりに鮎の甘露煮、鮎のからあげのついた「鮎定食」(2,600円)、さらに鮎の蒲焼が付いた「松定食」(3,100円)などがある。
僕らは鮎の塩焼き(中)に「鮎の甘露煮」(500円)、「ゴマ豆腐」(300円)、「鮎めし」(350円)、「鮎のからあげ」(500円)、「生ビール」(500円)などを注文した。
気持ちのいい風の吹く天気のいい日だった。川の音を聞き風に吹かれながら食べる鮎はまた格別だ。
何十年経っても変わらないのは、子供たちが川で遊ぶ姿だ。鮎を食べるよりも、打ち上げられた鮎を触ったり、川に入って遊んだりするのに夢中だ。またこの季節にやな場に帰って来たい。いつになっても飽きることのない、僕の原風景みたいな場所だ。
■店名:ひた鮎やな場
■住所:大分県日田市若宮町1233-22
■電話:0973-24-0420