震災の次の日、ピエール・ガニエールを予約していた。あの震災の後なので、当然どこにも行くことができず、予約はキャンセルすることになった。結局その後ガニエールには行ったものの、ブログに書く気は全く起きなかった。震災の悲惨さと、記念日のフレンチとのギャップ。ようやく書いてみようかと思えるようになったのは、震災から1年半が過ぎたつい最近のことだ。
青山にあった「ピエールガニエール・ア・東京」でのディナーは、これまで食べた中で最も感銘を受けた食事の一つだった。この店はいろいろあって閉店することになったそうだが、すぐにインターコンチネンタルホテルに新店を出した。インタビューなどを見ると、この店ではガニエール氏が納得できる料理を出せそうな気がした。青山以上の魅力的な料理が供されるのかもしれない。そういう期待もあって、訪問するのをずっと心待ちにしていた。
フォアグラのシャンティー、赤ビーツのアイスクリームとコンフィ、マンディアントーストを添えて
焦がしバターで焼いたアイナメ、魅惑的なじゃがいも”梅干しとオリーブタギャス”貝のブイヨンと共に
ブレス産鳩肉のカカオ風味、茄子のブレゼとポレンタのクリスティアン 鳩モモ肉のカイエット、生姜を効かせて
その前日に例の震災が起きてしまった。僕が電話したときには、ほとんどのお客さんはキャンセルをしていた。大きな余震も続いていて、交通機関も麻痺していた。お店は36階という高層階にあるにも関わらず、被害はほとんどなかったという。それでもこんな状況で食事に行くことはできない。僕らもキャンセルをして、用意していたお金は全額寄付することにした。
トーストとクミン風味のマンステール、ゲヴェルツトラミネールのジュレを添えて ブルードヴェルニュとプルーンシート ミモレットの薄切り
記念日のプレート
青山のときは、ガニエール氏はずっと厨房にいた。終盤、各テーブルを挨拶に回る姿は、世紀の天才のオーラに満ち溢れていた。ところが今回は、最近カメラがお気に入りなのか、ずっと一眼レフを覗いて絶えず写真を撮っている。僕が料理を撮影する姿も十数枚撮ってたんじゃないだろうか。逆に僕もガニエールを撮ったし、記念に一緒に写ったりもした。普通の時期の食事だったら、記念に残る素晴らしい思い出になっただろう。それだけに、この日のことを思い出すのはなかなかツラかった。
終盤はデザートの連続
料理は相変わらずおいしかった。金額は青山のときと比べてかなりリーズナブルになっていて、その分食材費は抑えられていた。それはそれで悪いことではないけれど、ガニエール来日中のディナーとしては物足りなかった。青山の頃は、料理がおいしいだけでなく、エンターテイメントとしても成立するほどコースが練られていた。まさに驚きの連続。今回はそれがない。料理のクオリティはあいかわらず高く、文句のつけようはない。ただ、ピエール・ガニエールといえど、毎日奇跡的な料理を出すのは難しいということだろう。
とはいえ、この内容であれば満足するべきなのだろう。1年半前のことだけど、今でもどんな味だったかほとんど思い出せる。こんなレストランは滅多にない。もう軌道に乗っているだろうから、また来年にでも再訪してみようと思う。
■店名:ピエール・ガニェール
■住所:東京都港区赤坂1-12-33 ANAインターコンチネンタルホテル36F
■電話:03-3505-9505 (9:30~21:00)
■営業時間:11:30~14:00(L.O.)、18:00~21:00(L.O.)
■定休日:月曜日
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