大阪の宿をあとにして、次の目的地高野山に向かった。高野山ではこの旅行のメインとなる精進料理が待っている。その途中、少し時間が余ったので東大寺に寄ることにした。奈良駅からバスに乗って東大寺に向かう。信号待ちの時、バスの窓から見えた景色に目を疑った。反対側のバス停の奥に公園があり、子供たちが遊んでいる。その横には巨大な鹿が、寝そべったり歩き回ったり、けっこうな頭数が自由に遊びまわっているではないか。普段見ることのない鹿が、奈良に来ると急に身近な存在になる。心の準備ができる前にそんな現実に引きずり込まれた気がした。
東大寺の鹿はすごかった。目の前の公園には鹿がウジャウジャいて、そこを通らないと東大寺には行けない。鹿の大好物だという鹿せんべい(10枚150円)を買ってあげてみることにした。売っているおばちゃんと話していると、買う前から鹿が次々と寄ってくる。寄ってくるだけじゃなくて、なぜか噛みついてくる。「早くよこせ」ということだろう。奈良では鹿は「神の使い」と聞いていたが、鹿せんべいには「神の使い」すら惑わせる何かがあるらしい。材料は米ぬかと小麦粉だそうだが、人間にとってはおいしいものではない。どんな味がするのか一度食べてみたいものだが、大きな鹿たちに囲まれて、突進を受けたり噛まれたり、とてもじゃないが味見をする余裕はなかった。
奈良駅の近くに釜揚げうどんで有名な店、「重乃井」がある。奈良で最もおいしいうどんが食べれる店として定評のある店だ。釜あげうどんといえば、四国以外ではなぜか宮崎県が有名。重乃井も本店は宮崎にある。
メニューは冷やしうどん、天ぷらうどん、月見うどん、きつねうどん、釜あげうどんがあり、それぞれ並と大がある。せっかくなので看板メニュー釜揚げうどん(大700円)にした。並みと大の差額は100円。ここは素直に大にしておくべきだろう。ご飯類はちらし寿司(200円)、いなり寿司(200円)、おにぎり(200円)。日曜祝日以外の11:00~14:00はタイムサービスとなっており、うどん一杯につきご飯類が一皿サービスされる。僕らはちらし寿司といなり寿司をお願いした。
メニューとは別に釜あげうどんの「お召し上がり方」という冊子が用意されている。「麺をめんつゆに漬けてお召し上がりください。麺が全てなくなりましたら、めんつゆを丼に戻して、スープとしてお召し上がり下さい」とある。茹で汁のスープだが、これがけっこううまい。思わず全部飲み干してしまった。
メニューには「10分程お待ちください」とある。釜あげうどんは時間が掛かる。釜あげうどんは茹でたあと水で締めずに、釜からとったままの麺を使う。讃岐うどんのように大量に茹でて水で締める店の場合、釜あげの注文が入るとその分だけ別にするので、他のメニューよりも時間が掛かる。重乃井の場合、注文を受けてから茹ではじめるというから、どのメニューを注文しても10分ほど時間がかかるようだ。
店内には半分くらいのお客さんが入っている。皆新聞を読んだり雑誌を読んだり、思い思いの時間を過ごしていた。うまいものを食べるには待つことも必要。やはりこのくらいの心の余裕がないといけない。
重乃井のうどんは、昆布、かつお、日向産しいたけなどから取った出汁つゆに手打ち麺を合わせる。うどんはたっぷりの茹で汁の中に入って運ばれてきた。白く濁った湯の底からうどんを引き上げると、生温かい湯気からほんのりとうどんの香りが立ち上ってくる。まずは何もつけずに食べてみた。コシがなくゆるい麺だが、小麦の味わいがやさしく伝わってくる。水締めのようなコシはないが、モチモチとした食感のよさがある。かつおや椎茸が香る甘めのつゆは、普通のうどんだとしつこいかもしれないが、釜あげうどんと合わせるとちょうどいい。
■店名:手打ち釜あげうどん重乃井 奈良店
■住所:奈良県奈良市杉ケ町17-1
■電話:0742-26-7748
■営業時間:11:00~麺が終わり次第閉店
■定休日:水曜日、第3火曜日
※ランチタイム(11:00~14:00)おにぎり、いなり寿し、ちらし寿し、いずれか一品サービス
※日曜、祝日はランチサービスなし
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